法人防災・IT安全コラム
熱いモバイルバッテリー…燃える要因を考える
先日、田園都市線の桜新町駅に行ったら、電車内でモバイルバッテリーを使用する際の注意を促す掲示がありました。
モバイルバッテリーの発火事故のニュースはよく見ます。でも正直なところ、「ニュースにはなるけど、本当にそんなにあるの?」と思っていました。毎日のように持ち歩いていますし、電車の中でも普通に充電している人を見ます。
そこで、ちょっと調べてみました。
1.意外と、本当に燃えている。

調べてみると、ありました。しかも電車の中でも起きています。
NITEが紹介している事例では、2020年、神奈川県の電車内でモバイルバッテリーから出火し、10歳代の男性がやけどを負っています。調査では、内蔵されたリチウムイオン電池が内部短絡し、異常発熱して焼損したものと考えられています。
そして2026年にはAnker。消費者庁は9月、リコール対象となっている「Anker PowerCore 10000」について、長野県の宿泊施設で充電中に異音がし、製品とその周辺を焼損した事故を公表しています。なお、この事故自体の原因については現在調査中です。
伊藤サプライではAnker製品を販売していますし、筆者自身も使っています。それでも、「有名メーカーなら絶対に大丈夫」とは言えないということなのでしょう。
2.なぜ、あんな小さな電池が燃える?
では、なぜリチウムイオン電池は燃えるのでしょうか。ここだけ少し技術的な話をします。
リチウムイオン電池の中にはプラス極とマイナス極があり、その間をリチウムイオンが行き来しています。そして両者が直接触れないように、非常に薄い「セパレーター(隔膜)」が入っています。
【怖いのは「内部ショート」】
落とす、押しつぶす、高温になる、劣化する、あるいは製造上の問題など、原因はいくつもあります。その結果、セパレーターが傷つくなどしてプラス極とマイナス極が電気的につながってしまうことがあります。これが「内部短絡(内部ショート)」です。
ショートすると大きな電流が流れて発熱します。さらに温度が上がると、電池内部で発熱を伴う反応が進みます。
内部ショート ➔ 発熱 ➔ 内部の反応が加速 ➔ さらに発熱(=「熱暴走」)
しかも一般的なリチウムイオン電池には可燃性の電解液が使われています。温度が上がれば可燃性ガスが発生することもあり、条件が重なると発煙、発火、破裂につながります。もちろん、発火のきっかけは内部ショートだけではなく、過充電や外部からの加熱などもあります。
要するに、「小さな箱にたくさん電気をためられる優等生。でも、内部で異常が起きて熱暴走すると怖い」ということです。そして、この仕組みが分かると、後ほど紹介する「半固体電池」がなぜ注目されているのかも分かってきます。

3.10,000mAhって、2,000mAhより燃えやすいの?
ここで一つ疑問が出てきました。
モバイルバッテリーを見ると、「5,000mAh」「10,000mAh」「20,000mAh」と容量が書いてあります。だったら容量が大きいほど、燃えやすくなるのでしょうか。
調べてみると、「容量が大きい=燃えやすい」という単純な話ではありません。発火のしやすさには、電池そのものの品質や劣化、内部短絡、衝撃、高温、保護回路など、いろいろな要因が関係します。
ただし、同じような電池・電圧なら、容量が大きいほど蓄えているエネルギーも大きくなります。
つまり、「燃えやすさ」と「燃えたときに抱えているエネルギー量」は別の話ということです。
そう考えると、「10,000mAhだからスマホを何回充電できる?」だけ見て選ぶのも、ちょっと違う気がしてきました。容量より、中身も見た方がいいのでは?

4.「半固体」って何だ?
そこで見つけたのが、バッファローの半固体モバイルバッテリー「BMPBSA10000シリーズ」です。
【「半固体」とは何なのか?】
電池内部の電解質に、液体ではなくゲル状の半固体電解質を採用しています。バッファローは、破損やショートが発生した場合でも、従来の液体電解質を使ったものと比べて、発火・発煙リスクを抑えることを狙った製品と説明しています。
先ほど、一般的なリチウムイオン電池では、内部ショートから温度が上昇し、可燃性の電解液なども関係して発火につながることがあると書きました。そう考えると、電解質そのものを燃えにくい方向へ変えていくという発想は、なかなか面白い。容量を増やす、充電を速くするという進化だけではなく、「燃えにくくする」という方向にも電池が進化しているわけです。
【釘を刺す。押しつぶす。】
さらに面白かったのが安全試験です。バッファローでは釘刺し試験や圧壊試験まで行っています。モバイルバッテリーに何の恨みがあるのか(笑)。
でも、よく考えると理にかなっています。モバイルバッテリーはカバンに放り込まれ、落とされ、ぶつけられ、ときには重い荷物の下敷きになります。つまり、「普通に使っているときに動くか」だけではなく、「壊れたときにどうなるのか」も重要なのです。
もちろん、「半固体=絶対に燃えない」ではありません。それでも、「何mAhあるか」だけではなく、「そのmAhを、どんな電池に蓄えているのか」まで見る。モバイルバッテリーの選び方も、少し変わってきているのかもしれません。

5.「爆発しない」より「燃えにくい」を選ぶ。
結局、調べても「絶対に爆発しないモバイルバッテリー」は見つかりませんでした。
半固体のように安全性を高める新しい技術は出てきていますし、メーカー各社も安全制御を進化させています。それでも工業製品である以上、「絶対」はなかなか言えません。
だから現実的には、容量や価格だけでなく、電池の種類、安全制御、メーカーが安全性についてどこまで情報を公開しているか、そして問題が起きたときのリコール対応まで見る。
ユーザー側が気をつけるべき日常のポイント
- 真夏の車内など高温になる場所に放置しない
- 強い衝撃を与えない
- 異常に熱くなったら使わない
- バッテリー本体が膨らんできたら使用をやめる
6.ところで、そのノートPC大丈夫ですか?
ここまでモバイルバッテリーの話をしてきましたが、考えてみればノートパソコンにもリチウムイオン電池が入っています。
これ、意外とバッテリーが膨らんだまま使い続けている人がいます。「最近、パソコンの底が少し浮いている」「タッチパッドが押しにくい」「筐体に隙間ができてきた」。そんな変化があれば、単なる経年劣化と思わず、バッテリーの状態を確認した方がよいでしょう。
モバイルバッテリーも、ポータブル電源も、ノートパソコンも、スマートフォンも。改めて考えると、私たちの周りはバッテリーだらけです。
7.「バッテリーなんて、どれも同じ」ではなさそうです。
駅の掲示を見たときは、「そんなに燃えるものなのかな?」と思っただけでした。ところが調べてみると、本当に電車内で発火事故があり、有名メーカーの製品にもリコールがあり、その一方では半固体電池のような新しい技術も登場していました。
これまでモバイルバッテリーを選ぶときは、容量、出力、重さ、価格を見ていました。でも、これからはもう一つ。
「中身と安全性」
も見たいところです。
探そして、自分もカバンの中にあるモバイルバッテリーを確認。
……防災記事を書きつつ、自分が第一発火地点にならないように(笑)。
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