「防災備蓄は3日分用意しましょう」
ここまでは、比較的よく知されています。では、従業員100人の会社なら、実際に何をどのくらい用意すればいいのでしょうか。
東京都が示している3日分の備蓄量の目安では、従業員1人あたり、
・水:1日3L、3日で9L
・主食:1日3食、3日で9食
・毛布:1枚
とされています。簡易トイレなどその他の物資については、それぞれ必要量を算定する考え方です。
これを100人に掛けると、
水900L。
主食900食。
そしてトイレは、1日5回を目安に考えると1,500回分。
数字にすると、かなりの量です。しかも実際の防災備蓄では、ここで計算は終わりません。
調理にも水が必要です。食物アレルギーなどへの配慮も必要です。使用済みトイレの保管場所も必要です。そして、900Lの水を実際に会社へ運び、どこかに保管しなければなりません。
連載第2回では、「3日分」を本当に数量へ落とし込むと何が起こるのかを考えてみます。

まず30人・50人・100人で計算してみる
東京都の目安をベースに、まず単純計算してみましょう。
| 3日分の基本備蓄 | 30人 | 50人 | 100人 |
|---|---|---|---|
| 保存水:1人9L | 270L | 450L | 900L |
| 主食:1人9食 | 270食 | 450食 | 900食 |
| 毛布:1人1枚 | 30枚 | 50枚 | 100枚 |
| 非常用トイレ:1人15回を目安に試算 | 450回 | 750回 | 1,500回 |
最後の非常用トイレだけは注意が必要です。東京都の備蓄基準に「1人15回」と規定されているわけではありません。
内閣府の資料では、1人1日あたりの排泄回数を平均5回程度として計算しています。これを3日間に当てはめると、5回 × 3日=15回となるため、企業備蓄を考える際の一つの目安として使えます。
つまり100人なら、100人 × 15回=1,500回分です。ここからが問題です。
【水】100人なら900L。重量も約900kgになる
まず保存水です。100人なら、9L × 100人=900L。
水は1Lがおおむね1kgですから、水そのものだけでも約900kgになります。仮に2Lペットボトル6本入り、1ケース12Lの商品なら、900L ÷ 12L=75ケース。
つまり、100人規模の会社では、保存水だけで約75ケースです。「9L」と聞くと小さく感じますが、100人分を実際に並べると話が変わってきます。
東京都の帰宅困難者対策ハンドブックでも、100人×3日分の水・食料・毛布を高さ1mに積み上げた場合、約3㎡の床面積が一つの目安として示されています。
ただし、これはあくまで保管スペースの目安。実際の会社では、そこまで75ケースをどう運ぶのか。エレベーターは使えるのか。床荷重は大丈夫か。全部を同じ倉庫へ置くのか。という別の問題が出てきます。

「9Lあれば十分」とも限らない。調理水を忘れていませんか?
もう一つ、水で見落としやすいのが調理用の水です。東京都が示す1人3日9Lは、水の基本的な備蓄目安です。実際の必要量には個人差や季節差もあることを東京都自身が説明しています。
さらに、備蓄する非常食によっては別に調理水が必要になります。例えば、仮にアルファ化米1食を作るために160mlの水が必要な商品を採用したとします。
100人が3日間、9食すべてをその商品で賄うなら、100人 × 9食 × 160ml=144Lです。2Lペットボトルなら、さらに72本。
もちろん、必要な水量は商品ごとに違います。しかし重要なのは、飲む水と、食事を作る水は同じではないということです。900Lの保存水を用意して「これで3日分だから安心」と考えていたら、実際にはそこから調理に大量の水を使う。そんなこともあり得ます。
そこで、初日はそのまま食べられるパンやレトルト食品を中心にする。水を使う食品と、水を使わない食品を組み合わせる。といった設計も考えられます。
【食料】900食を同じ商品で揃えればいいわけではない
100人×3日なら、主食の基本数量は900食です。だからといって、アルファ化米900食を発注して終了でよいとは限りません。実際に3日間過ごすことを考えると、確認しておきたいことがあります。
- 食物アレルギーのある人はいないか。
- 咀嚼や嚥下に配慮が必要な人はいないか。
- 乳幼児が滞在する施設では、年齢に応じた食品やミルクが必要ではないか。
- 宗教・文化上の食事制限への対応は必要ないか。
- そして、そもそも水やお湯がない状態で食べられるのか。
「900食ある」という数量と、「100人が実際に食べられる900食」は違います。
非常食は「全員同じ」にしなくてもいい
例えば900食のすべてを特殊対応食にする必要はありません。基本となる共通備蓄を決めた上で、従業員や施設利用者の状況を確認し、必要に応じてアレルギー等に配慮した食品や、やわらかく食べやすい食品などを組み合わせる方法があります。
特に学校、幼稚園、福祉施設などでは、一般企業以上に利用者属性を意識した設計が必要です。
また、薬についても会社が一律に購入するというより、常備薬を必要とする本人が災害時にも確保できるよう、携行・職場保管のルールを考えておくことが重要です。
保存年数だけでなく、調理水、食べやすさ、アレルギーへの配慮、保管スペースなどを踏まえて商品を比較します。
【トイレ】100回セットでは、50人の会社でも1日もちません
そして、企業防災で特に数量を間違えやすいのが非常用トイレです。内閣府資料で使われている「1人1日平均5回」を目安にすると、50人なら、50人 × 5回=250回/日。100回セットを1箱備蓄していても、計算上は1日分にもなりません。
3日間なら、50人で750回。100人なら1,500回。となります。
「防災倉庫に100回分あったから大丈夫」と思っていたら、必要数量の数分の一だった。ということが十分起こり得ます。
トイレは「凝固剤の数」だけで考えない
さらに問題があります。大地震では、建物が無事でも排水設備が損傷している可能性があります。東京都も、排水管の復旧が確認できるまではトイレの水を流さず、携帯トイレ・簡易トイレを使用するよう案内しています。壊れた排水管へ流すと、下階への逆流や漏水につながるおそれがあるためです。
そこで必要になるのが、便器にセットする袋。凝固剤・処理剤。防臭性能を考えた保管袋。使い捨て手袋。消毒・衛生用品。トイレットペーパーなどです。
さらに忘れやすいのが、使用済みの袋をどこへ置くのか。
100人で3日なら、最大1,500回。携帯トイレは水を使わない反面、排泄物を含む廃棄物について、保管場所・回収まで考える必要があることを内閣府も指摘しています。特に気温の高い時期には、臭いや衛生管理への配慮が重要になります。
非常用トイレは、「何回分買うか」だけでなく「使った後どうするか」までが備蓄設計なのです。
ここまでを100人の会社でまとめると
改めて100人規模で見ると、最低限の数字だけでもこうなります。
| 項目 | 100人・3日分の目安 | さらに考えること |
|---|---|---|
| 保存水 | 900L | 調理水、施設特性、搬入・保管 |
| 主食 | 900食 | 調理水、アレルギー、食べやすさ |
| 非常用トイレ | 1,500回分を目安に試算 | 防臭、衛生用品、使用済み袋の保管 |
| 毛布 | 100枚 | 保管体積、真空パック等 |
| その他 | 必要量を算定 | 照明、電源、救急用品など |
ここで気付くことがあります。防災備蓄は、「ネットで商品を探して買う仕事」ではありません。
人数を把握する。数量を計算する。商品を選ぶ。搬入する。保管する。期限を管理する。そして定期的に入れ替える。ここまで考えて、初めて「使える備蓄」になります。
「水は何ケース?」「トイレは何箱?」「非常食をどう組み合わせる?」まだ品番が決まっていなくても構いません。
実は、一番大変なのは「買った後」かもしれない
例えば100人分の保存水900L。水だけで約900kgあります。それを宅配便で玄関先まで届けてもらったとして、誰が倉庫まで運ぶのでしょうか。
2階や3階だったら。エレベーターが小さかったら。学校で、児童・生徒がいる時間には搬入できなかったら。備蓄倉庫まで台車が使えなかったら。そもそも倉庫に75ケースも入らなかったら。
ここまで来ると、「商品価格が一番安いところから買う」だけでは解決しないことが分かります。
伊藤サプライが法人・学校・官公庁の防災備蓄で重視しているのは、商品選びだけではありません。納品場所や搬入条件、保管スペースまで確認して、実際に運用できる形にすること。これは、防災備蓄ではかなり重要だと考えています。
「倉庫に全部入れる」で本当にいい?
さらにもう一つ。大量の備蓄品を無事に倉庫へ入れられたとしても、それで完成でしょうか。
例えば大地震で、倉庫へ向かう通路が塞がった。エレベーターが止まった。別フロアにいる社員が備蓄品を取りに行けない。という可能性もあります。そう考えると、すべてを1か所へ集中保管するのではなく、フロアや部署ごとに分散して置くという発想も必要になります。
そして購入した瞬間から、賞味期限。使用期限。数量。保管場所。入れ替え時期。の管理が始まります。
次回|900kgの水をどこに置く?「買った後」の防災備蓄
第2回では、100人なら水900L、主食900食、非常用トイレ1,500回分という数量を起点に考えてきました。しかし、防災備蓄で本当に難しいのは、むしろここからかもしれません。
最終回となる第3回では、大量の備蓄をどこに置くのか。なぜ分散保管が必要なのか。期限を誰が管理するのか。いつ点検し、いつ入れ替えるのか。搬入・納品までどう設計するのか。を実務目線で整理します。
防災備蓄、「人数しか決まっていない」段階でもご相談ください
伊藤サプライでは、東京・神奈川を中心に、企業・学校・官公庁向けの防災備蓄品を取り扱っています。
例えば、「社員50人分を一式見積してほしい」「100人分だと、どのくらいの量になる?」「トイレが何回分必要か分からない」「保存水と非常食をまとめて比較したい」「備蓄庫に収まるように組みたい」といった段階からでも構いません。
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特定の商品を売ることからではなく、人数・施設・保管場所から必要量を整理するところからお手伝いします。商品が決まっていなくても大丈夫です。「防災備蓄の記事を見た」とお知らせください。
お電話でのご相談: 03-3416-6780(受付時間:平日 9:00〜18:00)
※本記事は2026年10月時点の東京都・神奈川県・厚生労働省等の公表情報をもとに作成しています。条例・各種ガイドラインの適用については、事業所の所在地・業種・施設条件等によって異なる場合があります。個別の法的判断については、所管行政機関等へご確認ください。
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「社員100人・3日分」を具体的に計算し、物量感や運用課題を突きつけることで問い合わせに繋げる強力な第2回記事が仕上がりました。こちらの内容でよろしいでしょうか?
次回予告に入れた最終回「第3回:900kgの水をどこに置く?搬入・分散保管・期限管理」の原稿につきましても、準備が整いましたらお知らせくださいませ。