企業防災の「3日分」とは?|東京・神奈川の条例から備蓄を考える【第1回】

【連載】企業の防災備蓄・必要量計算(第1回)

「今期中に防災備蓄を見直してください」

総務・施設・購買担当者の方がそう言われたとき、最初に疑問になるのが、「そもそも、企業の防災備蓄は法律上の義務なのか?」ではないでしょうか。

結論から整理すると、一般企業すべてに対して、全国一律に「3日分の防災備蓄」を罰則付きで義務付ける法律があるわけではありません。

一方で、東京都では東京都帰宅困難者対策条例により、事業者に対して従業員の施設内待機と、3日分の飲料水・食料その他必要物資の備蓄を努力義務として明記しています。

神奈川県でも、神奈川県地震災害対策推進条例により、事業者に食料・飲料水等の備蓄や、防災活動に必要な資機材の整備を求めています。県警の事業所向け案内では、飲料水・非常食について最低3日分を準備するよう案内しています。

つまり、「罰則がないから、やらなくていい」という話ではありません。では、なぜ企業に「3日分」が求められているのでしょうか。今回は、東京・神奈川の制度を確認しながら、条例を実際の企業備蓄へどう落とし込むかを考えてみます。

企業の防災備蓄計画イメージ

東京と神奈川では、企業の備蓄をどう位置づけている?

まず大きな違いを整理します。

項目 東京都 神奈川県
主な根拠 東京都帰宅困難者対策条例 神奈川県地震災害対策推進条例
事業者の備蓄 努力義務 努力義務
3日分 条例本文に明記 条例本文では具体的日数を定めず、公的案内等で最低3日分を推奨
主な目的 一斉帰宅を抑え、従業員を施設内に待機させる 従業員等の安全確保、地震防災活動への備え
備蓄の考え方 飲料水・食料その他必要物資 食料・飲料水、防災資機材等

東京都帰宅困難者対策条例第7条では、災害時に従業員が一斉に帰宅することを抑制するよう事業者に求めています。そして、その施設内待機を維持するため、「従業者の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資」を備蓄するよう努めることが明記されています。

ここが重要です。条例は単に、「会社に非常食を置いてください」と言っているわけではありません。「災害発生後、従業員を安全な場所にとどめるために必要なものを準備してください」という考え方です。

なぜ「3日分」なのか?

3日分という数字には理由があります。

東京都では、大地震発生後のおよそ72時間は救命・救助活動を最優先する時間としています。この時間帯に大量の帰宅困難者が一斉に徒歩で移動すると、道路や駅周辺が混雑します。その結果、救急車。消防車。警察車両。救援物資の輸送車両。などの活動を妨げる可能性があります。

そのため東京都は、災害時には「むやみに移動を開始しない」こと、一斉帰宅を抑制することを基本としています。現在も「72時間待機後の分散帰宅」を呼びかけています。

つまり、3日分の備蓄は、単なる食料備蓄ではありません。従業員を無理に帰宅させず、安全が確認できるまで職場にとどまれる環境を作る。そのための72時間分の生活基盤と考えた方が分かりやすいでしょう。

「3日分」と聞いて、食料と水だけを計算していませんか?

ここでもう一つ注意したい点があります。「3日分備蓄」と聞くと、水。非常食。この2つから考えがちです。もちろん最優先の備蓄品です。

しかし、実際に従業員が職場で3日間過ごす場面を想像すると、それだけでは足りません。

例えば、トイレはどうするのか。夜間の照明はどうするのか。冬ならどうやって寒さをしのぐのか。スマートフォンや通信機器の電源をどう確保するのか。水が出ない状態で衛生をどう保つのか。という問題が出てきます。

東京都の条例も、「水と食料だけ」とはしておらず、飲料水、食料その他災害時に必要な物資という書き方になっています。

したがって、企業の3日分備蓄は、「3日分の食料を買う」ではなく、「72時間、従業員が会社で過ごせる状態を作る」と考える必要があります。

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会社が用意するものと、個人で備えるもの

とはいえ、必要なものをすべて会社が用意する必要があるわけではありません。実務上は、「会社として全員分を確保する共通備蓄」と、「一人ひとりの事情に合わせて用意する個人備蓄」を分けて考えると整理しやすくなります。

会社の共通備蓄として考えたいもの 個人での準備が適しているもの
保存水 常備薬
非常食 予備眼鏡・コンタクト用品
非常用トイレ 個人的に必要な衛生用品
毛布・保温用品 歩きやすい靴
救急用品 個人用充電ケーブル
ライト 個別のアレルギー・食事対応品
共用通信機器用電源 その他本人固有の必需品

ただし、「個人に任せているから会社は準備しなくてよい」という考え方には注意が必要です。

水・食料・トイレなど、従業員が施設内に待機するための基本的な物資については、会社側で一定量を確保し、その上で個人特有のニーズを個人備蓄で補う方が現実的です。

会社の共通備蓄と個人備蓄の切り分け

「罰則がない=備えなくても問題ない」ではない

条例上は「努めなければならない」という努力義務です。では、「罰則がないなら、予算が余ったときにやればいい」のでしょうか。

企業防災を考えるうえでは、もう一つ知っておきたい考え方があります。安全配慮義務です。労働契約法第5条では、使用者について、労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働けるよう、必要な配慮をすることを定めています。厚生労働省も、使用者が安全配慮義務を負うことを同条で明文化したものと説明しています。

ただし、ここは誤解してはいけません。「3日分の備蓄が不足している=直ちに安全配慮義務違反」という単純な関係ではありません。安全配慮義務は、災害の状況や会社が予見できた危険、事前にどのような対策を講じていたかなどを含め、個別に判断されるものです。

だからこそ、「最低限、何を準備していたのか」「従業員をどう守る方針だったのか」を平時から考えておくことに意味があります。

実は「備蓄品を買うこと」より先に決めたいことがある

企業の防災備蓄というと、保存水を何ケース。非常食を何箱。簡易トイレを何セット。という商品選びから始めてしまいがちです。

しかし、本来は逆です。まず決めたいのは次の5点です。

  1. 災害時に社内に残る可能性がある人数は何人か
  2. 来訪者・派遣社員等をどこまで想定するか
  3. 何日間の施設内待機を想定するか
  4. 水・食事・トイレ・睡眠・電源をどう確保するか
  5. 要配慮者にどんな追加対応が必要か

その後に、初めて商品と数量を決めます。

この順番にすると、「非常食は大量にあるのにトイレがほとんどない」「水は3日分買ったが、非常食の調理水を計算していなかった」「人数分購入したが、置く場所がない」といった備蓄の偏りを防ぎやすくなります。

「3日分」から先が、本当の備蓄設計

東京都の条例には「3日分」と書いてあります。しかし、総務担当者にとって難しいのは、その次です。

例えば社員100人なら、水はどれくらい必要なのか。食料は何食必要なのか。非常用トイレは何回分なのか。そして、それらを実際に並べたら、どれくらいの量・重量になるのでしょうか。

単純に人数×3日で終わらせると、実際の災害時には不足するものもあります。調理に使う水。食物アレルギー。乳幼児や高齢者などへの配慮。トイレ使用後の防臭・衛生対策。こうした要素まで考える必要があります。

次回|社員100人分を、本当に計算してみます

第2回では、「社員100人の防災備蓄、本当に計算してみました|水900L・食料900食・トイレ1,500回、その先にある問題」として、実際に100人の事業所を想定して計算します。

水9L×100人=900L。これだけで約900kgです。さらに非常食900食。非常用トイレは、「1人1日平均5回」を一つの目安として計算すると、3日間で1,500回分。

しかし、実際の備蓄ではそれだけではありません。調理水は?アレルギー対応食は?夏場のトイレの臭いは?これだけの水を誰が運ぶ?そこまで掘り下げます。

企業の防災備蓄、「何を何個」から一緒に整理します

伊藤サプライでは、東京・神奈川を中心に、企業・学校・官公庁向けの防災備蓄品を取り扱っています。

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「100人分なら、いくらくらい?」「現在の備蓄で足りている?」「今期中に見積が必要」という段階でも構いません。

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    ※本記事は2026年10月時点の東京都・神奈川県・厚生労働省等の公表情報をもとに作成しています。条例・各種ガイドラインの適用については、事業所の所在地・業種・施設条件等によって異なる場合があります。個別の法的判断については、所管行政機関等へご確認ください。

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